本件は、追突事故で身体を痛めながらも、経営努力により売上を維持していた個人事業主の方が、相手方保険会社から「減収していないので休業損害は発生していない」と主張された事例です。
外注費の急増と所得の実質的な減少を客観的に立証し、交通事故紛争処理センターの調停において、相手方保険会社から総額900万円の支払いを受ける内容で和解が成立しました。
このページの目次
🔍 依頼者の状況
- 依頼者: 藤田進さん(仮名)
- 当事者関係: 信号停車中に後方から追突された交通事故の被害者
- 主な争点: 個人事業主の休業損害の有無と算定方法
藤田さんは、関西圏で工場設備の運搬・据付けを請け負う個人事業主の方です。長年、ご自身も現場に出てクレーン操作や重量物の運搬を担い、青色申告で堅実に事業を続けてこられました。
ところが、ある日の昼下がり、得意先へ向かう途中、信号で停車していたところを後続車に追突され、首から肩、腰にかけて強い痛みを抱えるようになりました。診断は外傷性頸部症候群・右肩関節症・腰痛症。事故後、首を回す動作や重量物を支える姿勢を取るたびに鋭い痛みが走り、現場での実作業がほとんどできない状態になってしまいました。
それでも藤田さんは、長年お付き合いのある取引先に迷惑をかけたくないという一心で、外注業者に頭を下げて頼み込み、ご自身が担っていた作業を肩代わりしてもらうことで、なんとか売上を維持してこられました。約100日以上の通院治療を経たのち、自賠責保険において後遺障害14級9号(神経症状)の認定も受けています。
しかし、いざ相手方保険会社と休業損害の交渉に入った段階で、思いもよらない反論を受けました。
「決算書を見ると、事故の前年より売上が増えているではないか。減収していない以上、休業損害は発生していない」
――そう一蹴されてしまったのです。納得のいかない藤田さんは、当事務所にご相談に来られました。
⚖ 当事務所の対応
① 交通事故紛争処理センターへの申立て
ご相談を伺った結果、相手方保険会社との示談交渉では解決の糸口が見えない状況だと判断し、交通事故紛争処理センター(紛セン)へ申立てを行いました。紛センは、裁判ほど時間や費用がかからず、第三者である嘱託弁護士が間に入って和解あっせんを進める手続です。本件のように、損害額の評価で大きく主張が対立する事案では特に有効です。
② 税理士報告書を活用した「休業損害」の客観的立証
休業損害が「減収していないから出ない」と切り捨てられないようにするため、関与税理士の作成した報告書を中心に主張を組み立てました。具体的には、
- 事故前年と事故年で外注費が約400万円も急増していたこと
- 一方で、事故年の事業所得は前々年比で約400万円減少していたこと
- コロナ禍による特殊な変動を除外するため、令和元年の所得を比較対象とすべきこと
- 申告書類や仕訳の根拠を含めた具体的な数字
を、税理士が職業的責任のもとで証明した報告書として裁判所相当の場に提出しました。さらに、医療通院日や現場に出られなかった日を整理した稼働できなかった日数を裏付け資料とあわせて提示しました。
③ 「売上維持=損害なし」論への反論
そのうえで、相手方の「売上は減っていないから損害はない」という議論に対して、次のように反論を展開しました。
- 売上が維持できたのは、依頼者の経営努力によって、ご自身ができなくなった作業を外注に肩代わりさせた結果であり、その外注費の急増こそが事故による損害そのものであること
- 個人事業主の休業損害は、表面上の売上額ではなく、事業所得+固定費(地代家賃・従業員給与等)を基礎収入として評価すべきであり、稼働できなかった日数に応じた逸失利益が現に発生していること
- 申告漏れの修正は税理士の指導に基づく適正な手続によるものであり、各年度の所得が客観的な裏付けをもって確定していること
これにより、「数字の表面」ではなく「事業の実態」に踏み込んだ損害評価を裁定者に求めました。
💡 解決結果
紛争処理センターの和解あっせんは複数回の期日を重ねましたが、最終的に休業損害として約725万円が認められ、相手方保険会社から、既払金を控除したうえで総額900万円の支払いを受けるという内容で和解が成立しました。
自賠責保険における後遺障害14級9号(神経症状)の認定もあわせ、ご自身が経営を維持するために負担してきた外注費の増加と、現に動けなかった期間の損害が、正面から賠償の対象として認められた結果となりました。
藤田さんからも、「『売上が減っていないんだから諦めるしかないのか』と思っていたところを、きちんと数字で立証してもらえて本当に救われた」とのお言葉をいただいています。
💬 弁護士からのアドバイス
個人事業主の方の休業損害は、給与所得者の場合と比べて算定が一筋縄ではいきません。特に本件のように、「事業主としての責任感から無理をして売上を維持した」結果、表面の決算上は減収が見えにくくなっているケースでは、保険会社の提示金額がご自身の実感とかけ離れたものになりやすく、ご納得のいかないまま示談に応じてしまわれる方も少なくありません。
しかし実際には、次のような視点で立証を積み重ねていくことで、賠償が認められる余地は大きく広がります。
- 外注費・人件費の増加分を、ご自身が稼働できなかったことによる「肩代わりコスト」として位置づけて主張する
- 地代家賃・基本給など、稼働の有無にかかわらず発生する固定費を基礎収入に含めて計算する
- 青色申告決算書・確定申告書・各種帳票を、関与税理士の報告書というかたちで客観的な立証資料に仕立て直す
- 必要に応じて、交通事故紛争処理センター等の第三者機関を積極的に活用し、裁判よりも短期間で柔軟な解決を目指す
「売上が減っていないから休業損害は出ない」と言われて諦める前に、ぜひ一度、専門家にご相談いただきたいと思います。
📞 このような方はぜひご相談ください
- 自営業・フリーランスで、売上は変わらないのに事故の後遺症で以前のように働けず、外注費や人件費がかさんで困っている方
- 相手方保険会社から「減収していないので休業損害は出せません」と言われ、ご納得のいかない方
- 後遺障害が残ったものの、相手方の賠償提示額が低額で示談に応じるべきか迷っている方
大東法律事務所では、交通事故のご相談は初回無料で承っております。個人事業主の方の休業損害や後遺障害など、複雑な算定が必要となる事案にも数多く取り組んでまいりました。お悩みの方は、今すぐご相談ください。
