交通事故の被害に遭われて、保険会社から損害賠償金の提示を受けた方からご相談を受けると、提示されている賠償額は、適正な賠償額より低い金額であることがほとんどです。
「保険会社が計算した金額だから、こういうものだろう。」と疑わずに示談してしまうと、損をしてしまう可能性があります。
特に、後遺障害が残った場合や、被害者の方が亡くなられた場合には、適正な賠償額と比べて,数百万円から1000万円以上低い金額で提示されていることもあります。
ここでは、適正な賠償額と保険会社の提示する賠償額の違い、適正な賠償額の請求方法について、ご説明します。
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適正な賠償額と保険会社の提示する賠償額の違い
交通事故による適正な損害賠償額の算定方法について、地域により若干の差がありますが、大阪では「交通事故損害賠償額算定のしおり」(通称:緑本)に従って算定されます。
この緑本とは、法的に認められる損害賠償額について、過去の交通事故の裁判例などを基に算定方法を示したものであり、実際に裁判所でも参考にされています。
これに対して、保険会社が提示する賠償額は、自賠責保険の基準、または任意保険の基準に従って計算されたものです。
自賠責保険の基準とは、簡易な計算方法による最低限度の補償の基準で、適正な賠償額とはかけ離れたものです。
任意保険の基準は、保険会社が独自に定めている基準で、自賠責保険の基準よりは高い金額になる傾向がありますが、それでも適正な賠償額と比べるとかなり低い金額となります。
また、保険会社は、計算方法自体は大阪基準(緑本)と同様の場合でも、基準となる収入額や期間などを低く見積もって、賠償額をできるだけ少なく済むようにしてきます。
適正な賠償額と保険会社が提示する賠償額とで、特に金額の差が大きくなるのが、次の5つの項目です
- 入通院慰謝料
- 後遺障害の逸失利益
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故による負傷のため、入院・通院が必要となったことによる精神的苦痛に対する金銭的賠償のことを言います。
入通院慰謝料は、怪我の程度、入院・通院の期間、実際の通院日数に応じて、次のように定められています。
被害者の方の入院期間、通院期間を照らし合わせ、入院期間と通院期間とがクロスする部分が慰謝料額となります。
入通院慰謝料(大阪通常基準) | |||||||||||||
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
通院 | 53 | 101 | 146 | 186 | 220 | 250 | 266 | 277 | 286 | 295 | 303 | 308 | |
1月 | 27 | 76 | 121 | 164 | 201 | 228 | 255 | 270 | 282 | 291 | 298 | 306 | 310 |
2月 | 49 | 99 | 141 | 181 | 209 | 236 | 259 | 274 | 286 | 294 | 301 | 308 | 312 |
3月 | 72 | 119 | 159 | 193 | 217 | 244 | 263 | 278 | 290 | 298 | 304 | 311 | 314 |
4月 | 90 | 134 | 165 | 199 | 224 | 249 | 267 | 282 | 294 | 301 | 306 | 313 | 317 |
5月 | 108 | 145 | 175 | 207 | 230 | 254 | 270 | 286 | 298 | 304 | 308 | 316 | 319 |
6月 | 120 | 153 | 183 | 213 | 236 | 259 | 275 | 290 | 300 | 306 | 311 | 318 | 322 |
7月 | 128 | 161 | 193 | 217 | 242 | 263 | 280 | 294 | 302 | 308 | 313 | 320 | 324 |
8月 | 136 | 169 | 198 | 224 | 248 | 267 | 284 | 298 | 305 | 311 | 316 | 323 | 326 |
9月 | 144 | 176 | 204 | 232 | 254 | 271 | 288 | 301 | 307 | 313 | 318 | 325 | 329 |
10月 | 152 | 182 | 210 | 236 | 260 | 274 | 292 | 304 | 310 | 316 | 320 | 328 | 331 |
11月 | 160 | 188 | 216 | 241 | 264 | 277 | 294 | 306 | 312 | 318 | 323 | 330 | 334 |
12月 | 166 | 194 | 220 | 246 | 268 | 281 | 296 | 308 | 314 | 320 | 325 | 332 | 336 |
13月 | 170 | 199 | 24 | 250 | 271 | 284 | 299 | 311 | 317 | 323 | 328 | 335 | 338 |
14月 | 175 | 203 | 228 | 253 | 275 | 287 | 301 | 313 | 319 | 325 | 330 | 337 | 341 |
15月 | 180 | 206 | 232 | 257 | 277 | 289 | 304 | 316 | 322 | 328 | 332 | 340 | 343 |
16月 | 184 | 210 | 235 | 260 | 280 | 292 | 306 | 318 | 324 | 330 | 335 | 342 | 346 |
17月 | 187 | 214 | 239 | 263 | 282 | 294 | 308 | 320 | 326 | 332 | 337 | 344 | 348 |
一方で、自賠責保険の基準では、基本的な計算方法は、「通院日数1日あたり4300円」とされています。
通院日数は、被害者の怪我の程度、実通院日数などを考慮して計算します。通常は、「入院・通院の期間」と「実際の通院日数×2」との、少ない方を通院日数として算定します。
例えば、通院期間が6ヶ月、実通院日数が70日の場合、大阪基準(緑本)では116万円となるのに対して、自賠責保険の基準では60万2000円となり、約2倍もの差があります。
そして、入通院の期間が長いほど、怪我の症状が重いほど、この金額の差は大きくなります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する金銭的賠償のことを言います。
後遺障害慰謝料額は、後遺障害等級に従って金額が定められています。
大阪基準(緑本)が定める適正額と、保険会社が提示する自賠責保険の基準の額は、それぞれ次の通りです。
等級 | 大阪基準(緑本) | 自賠責保険の基準 |
1級 | 2800万円 | 1150万円 |
2級 | 2400万円 | 998万円 |
3級 | 2000万円 | 861万円 |
4級 | 1700万円 | 737万円 |
5級 | 1400万円 | 618万円 |
6級 | 1220万円 | 512万円 |
7級 | 1030万円 | 419万円 |
8級 | 830万円 | 331万円 |
9級 | 670万円 | 249万円 |
10級 | 530万円 | 190万円 |
11級 | 400万円 | 136万円 |
12級 | 280万円 | 94万円 |
13級 | 180万円 | 57万円 |
14級 | 110万円 | 32万円 |
例えば、最も重い等級である1級の場合、大阪基準の適正額は2800万円となっていますが、自賠責保険の基準では1150万円ですから、1650万円もの差があることがわかります。
最も軽い等級である14級の場合でも、大阪基準の適正額が110万円であるのに対して、自賠責保険の基準では32万円と、約80万円の差があります。
このように、保険会社が提示する後遺障害慰謝料は、適正額より大幅に低いものとなっていることが多いです。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が減少することで、本来であれば将来労働によって得られたはずの利益が失われてしまったことに対する補償を言います。
後遺障害逸失利益は、一年あたりの基礎年収、労働能力喪失率、労働能力喪失期間をもとに算定されます。
保険会社も、労働能力喪失率や労働能力喪失期間をもとに、逸失利益を計算します。
ただし、保険会社は、労働能力喪失率を本来の基準より低めに見積もったり、労働能力喪失期間を67歳までではなく10年間だけと期間制限したりして、逸失利益の金額を適正な額より低く算出していることが多いです。
例えば、私が過去に扱ったある事案では、11級の後遺障害が残った40代の男性について、労働能力喪失率は20%、労働能力喪失期間は20年以上が適正とされました。
しかし、保険会社は当初、労働能力喪失率を10%、労働能力喪失期間を10年と主張していました。
そのため、保険会社が提示していた当初の逸失利益の額は、適正な金額に対して1000万円以上も低い金額になっていました。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、被害者の方が亡くなられたことによる精神的な苦痛に対する賠償を言います。
死亡慰謝料は、家庭内での被害者の方の立場に応じて、以下の金額を基準とすると定められています。
一家の支柱の場合 | 2700万円~3100万円 |
一家の支柱に準ずる場合 | 2400万円~2700万円 |
その他の場合 | 2000万円~2500万円 |
これに対して、保険会社の基準の場合、上記の金額より1000万円以上も低くなるケースも少なくありません。
同じ一家の支柱の方が死亡した場合でも、保険会社の基準によれば1500万円程度しか支払われないということもあります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者の方が亡くなられたことで、本来であれば将来労働によって得られたはずの利益が失われてしまったことに対する補償を言います。
死亡逸失利益の額は、一年あたりの基礎収入、生活控除率、労働能力喪失期間をもとに算定されます。
保険会社も、一年あたりの基礎収入、生活控除率、労働能力喪失期間をもとに、逸失利益を計算します。
ただし、保険会社は、一年あたりの基礎収入を低めに見積もったり、生活控除率を本来の基準より低めに見積もったり、労働能力喪失期間を期間制限したりして、逸失利益の金額を適正な額より低く算出していることが多いです。
また、被害者の方が高齢者の場合や無職の場合には、具体的な事情を考慮せずに、逸失利益を認めないと主張してくることもあります。
適正な賠償額を請求する方法
被害者の方が「適正な賠償額はこうなるはずだ。」と主張しても、残念ながら、保険会社が適正な賠償額を支払うことは稀です。
交渉によっていくらか増額するということはありますが、あくまで任意保険会社の基準に基づいて支払いを行うため、大幅な増額をしてもらえる可能性は低いです。
適正な賠償額を支払ってもらうためには
- 弁護士に交渉を依頼する
- 裁判所に訴訟を提起する
の2つの方法が考えられます。
弁護士に交渉を依頼する
弁護士に交渉を任せると、保険会社は、適正な賠償額を基準とする交渉に応じることになります。
弁護士を立てることで、保険会社は、「法律上正しくない主張はできない。」、「適正な賠償をしなければ裁判になる可能性がある」と考えます。
そのため、被害者自身が交渉を行うよりも、主張が受け入れられやすくなるのです。
弁護士に交渉を任せれば、上記で説明したような適正な賠償額を支払ってもらえる可能性が高くなります。
裁判所に訴訟を提起する
保険会社の提案する内容に納得がいかない場合の手段として、裁判所に訴訟を提起することが考えられます。
裁判所は、上記で説明したような適正な賠償額の基準に従って判決することになります。
また、裁判所は、必ずしも判決をするわけではなく、進行に応じて和解を提案してくれることになります。裁判所の提案があれば、保険会社も適正な賠償額での和解に応じやすくなります。
ただし、裁判所は、あくまで中立的な立場の機関ですから、積極的に被害者の利益を最大化してくれるわけではありません。
自分に有利な判決・和解を獲得するためには、専門的な知識が必要になりますので、訴訟を提起する場合にも、やはり弁護士に依頼するのが望ましいでしょう。
保険会社から賠償額の提示を受けたら弁護士にご相談ください
このように、保険会社から提示される金額は、適正な賠償額でないことが多いです。
特に金額の差が大きくなるのが、入通院の期間が長い場合、後遺障害が残った場合、被害者の方が亡くなられた場合です。残念なことに、重大な事故であるほど、被害者の方が受けた損害が大きいほど、適正な賠償額からかけ離れた賠償額が提示されることになるのです。
保険会社から賠償額を提示された場合には、示談に応じる前に一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。
弊事務所では、交通事故の被害者の方からの初回相談は無料でお受けしております。適正な賠償額をお知りになりたい方は、お気軽にご相談ください。