【ご相談事例】同居する弟が母の預金を管理し、遺言もない——母の意思を守るために、今できることは?


📄 ご相談の背景

大阪府にお住まいの佐々木由美子さん(仮名)は、60代の女性です。お父様は数年前に亡くなり、ご自宅の土地建物は同居していた弟さんが相続しました。お母様はそのご自宅で弟さんと暮らしていましたが、高齢となり軽い認知症の症状が出始め、その後、体調を崩して緊急入院することになりました。

由美子さんが不安を募らせたのは、お母様が遺言書を残していないことでした。お母様は以前から「財産は娘にも渡したい」「自分の葬儀や納骨は、亡くなった夫と同じようにしてほしい」と口にしていましたが、その希望を書き残したものは何ひとつありません。

さらに、お母様の預金は数年前から弟さんが銀行の代理人として管理しており、残高がいくらあるのか、何にどれだけ使われているのか、由美子さんにはまったく分かりませんでした。お母様の入院後も弟さんが病室に入りびたりで、由美子さんはお母様と死後のことをゆっくり話す機会さえ得られない状態でした。

「母の気持ちがはっきりしているうちに、何かできることはないのでしょうか」——そうしたご相談でした。


💬 ご質問と弁護士の回答

質問1:「母が遺言を残さずに亡くなったら、財産はどうなってしまうのでしょうか。弟に全部持っていかれてしまいませんか」

回答:

まずご安心いただきたいのは、遺言書がない場合でも、弟さんが財産を独り占めできるわけではないという点です。

遺言書がないときは、民法が定める法定相続分(法律があらかじめ定めている、各相続人の取り分の割合)に従って分けるのが原則です。お母様のご相続人がお子様お二人だけであれば、由美子さんと弟さんの取り分は2分の1ずつ。これは、同居していたかどうか、介護をしていたかどうかにかかわらず、法律上の出発点として保障されています。

ただし、法定相続分どおりに分けるためには、相続人全員で遺産分割協議(誰が何をどれだけ受け取るかを相続人全員で話し合って決める手続)をまとめる必要があります。話し合いがつかなければ、家庭裁判所の調停・審判に進むことになり、時間も労力もかかります。

そして本件でより深刻なのは、次にご説明する「亡くなった時点で預金がいくら残っているか分からない」という問題です。法定相続分という原則はあっても、分ける対象そのものが目減りしていれば、原則は絵に描いた餅になってしまうのです。

質問2:「弟が母の預金を管理しています。もし勝手に使われていたら、後から取り戻せるのでしょうか。管理する人を私に変えることはできますか」

回答:

ご心配のとおり、ここが本件の一番の急所です。

相続が始まった後に、生前の預金の引き出しについて「本人のために使われたものではない」と主張していくことは、法律上可能です。これは実務上使途不明金の問題と呼ばれ、不当利得の返還や損害賠償として請求していく道があります。

ただし、これを法的に立証するのは決して簡単ではありません。 預金の取引履歴を金融機関から取り寄せて一件ずつ精査し、施設費・医療費・生活費といった「本人のための正当な支出」と、そうでない支出を切り分けていく作業が必要になります。相手方から「母に頼まれて渡した」「母のために使った」と言われてしまえば、それが本当かどうかを証明する資料は、管理していた側の手元にしかない、ということも珍しくありません。争いになってから取り戻すのは、想像以上に難しいとお考えください。

だからこそ、今のうちに、これから先の管理を安全な形に整えておくことの方がはるかに実効性があります。具体的には次の2段構えです。

  • 銀行の代理人の変更:預金の管理を任せる代理人を誰にするかは、あくまで口座の名義人であるお母様ご自身が決めることです。お母様がご自身の意思で変更を届け出れば、管理者を由美子さんに変えることができます。ご本人のご負担を減らすため、弁護士が事前に金融機関と手続や必要書類を調整し、ご本人の署名・押印だけで済むよう手配することも可能です。
  • 任意後見契約:将来お母様の判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめ信頼できる方(この場合は由美子さん)を後見人として決めておく契約です。ここが重要な点なのですが、任意後見人は家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督のもとで財産管理を行います。つまり、不透明な支出が起こる余地を制度的に封じることができるのです。

なお、任意後見契約は「今すぐ財産を取り上げる」ものではありません。あくまで将来の万一に備える保険であり、ご本人の意思に基づいて結ぶものです。ここを丁寧にご説明することが、ご本人に納得していただくうえで欠かせません。

質問3:「母は『お葬式やお墓は夫と同じようにしてほしい』と言っています。この希望を確実に実現するには、何から手をつけるべきでしょうか」

回答:

葬儀や納骨の希望は、遺言書だけではカバーしきれないことが多い領域です。ご希望を確実に実現するには、目的ごとに次の3つを組み合わせるのが有効です。

  • 公正証書遺言:公証人が関与して作成する遺言書です。ご自身で書く自筆証書遺言と違い、方式の不備で無効になるおそれがなく、原本が公証役場に保管されるため、偽造・紛失・隠匿の心配もありません。相続を巡って争いが予想されるご家庭では、公正証書での作成を強くおすすめしています。
  • 死後事務委任契約:葬儀の方法、納骨する場所、その他の死後の諸手続について、ご本人の希望を具体的に書き残し、その実行を信頼できる方に委ねておく契約です。「どこに納骨してほしいか」といった希望は、遺言書に書いても法的な拘束力が生じにくいため、この契約であらかじめ実行役を決めておくことに大きな意味があります。
  • 任意後見契約:質問2でご説明した、生前の財産管理に備える契約です。

そして、何より大切なのは時間軸です。 これらの契約や遺言は、いずれもご本人に十分な判断能力があることが前提となります。軽い認知症の症状が出ていても、ゆっくりお話しすれば意思疎通ができ、ご自身で署名できる状態であれば、作成できる可能性は十分にあります。しかし判断能力は日によっても変わりますし、時間の経過とともに失われていくものです。判断能力が失われてしまえば、もはや遺言も契約も作れず、残された道は法定後見(家庭裁判所が後見人を選ぶ制度)だけになります。

実務では、ご本人が入院・入所されている場合、弁護士がその場所まで出張してご本人と直接お会いし、ご意向を丁寧に確認します。ご家族の同席がないところでお話を伺うこともあります。ご本人が納得して自らの意思で決めたのだ、という記録を残しておくことが、後の争いを防ぐ最大の備えになるからです。


📌 この事例のポイント整理

  • 遺言書がなくても、法定相続分(お子様2人なら2分の1ずつ)は法律上保障されている。ただし分ける対象の財産が目減りしていれば、その原則は意味を持たなくなる。
  • 生前の預金の使い道を後から争うのは、立証のハードルが高い。争ってから取り戻すより、これから先の管理を安全な形に整える方が実効的
  • 葬儀・納骨の希望は遺言書だけではカバーしにくい。公正証書遺言+死後事務委任契約+任意後見契約を目的に応じて組み合わせる。
  • すべての前提は「ご本人に判断能力があること」。判断能力が失われた後では、何ひとつ作れない。

📣 弁護士からのアドバイス:生前の備えは「意思がはっきりしているうちに」が鉄則です

ご家族の一人が親御様の財産を管理し、他のご家族には中身が見えない——このご相談は、決して珍しいものではありません。多くの場合、管理している側に悪意があるとは限りません。それでも「見えない」という状態そのものが、ご家族の間に強い不信を生み、亡くなった後の深刻な争いに発展していきます。

こうしたご相談で私が最もお伝えしたいのは、遺言書や各種の契約は、ご本人の意思を「他のご家族に押し付ける」ための道具ではないということです。むしろ逆で、ご本人が本当はどう考えていたのかを明らかにし、その意思を守るための道具です。だからこそ、ご家族の誰かが望んだだけでは作れません。必ずご本人自身が、ご自身の意思で決める必要があります。

そして、その「ご自身で決められる時間」には限りがあります。ご本人が元気なうちは「まだ早い」「縁起でもない」と話題にしづらく、いざ切迫してから動き出すご家族が本当に多いのですが、その時点ではもう判断能力が十分でなかったり、ご本人が体調を崩されていたりして、選べる手段が大きく狭まってしまいます。

「気になっている」という段階が、実は一番良いタイミングです。 少しでも不安を感じておられるなら、まずは何ができるのかを知るところから始めてください。


🏢 遺言・生前対策のご相談は、大東法律事務所へ

親御様の財産管理や遺言について不安を抱えておられる方は、「まだ何も起きていないのに相談してよいのだろうか」と迷われることが多いものです。しかし、私どもがご相談をお受けして最も力になれるのは、まさにその「まだ何も起きていない」段階です。ご家族の関係を壊さずに、ご本人の意思を確実に残していく方法を、一つひとつ具体的にご提案いたします。どうぞお気軽にご相談ください。

当事務所では、相続に関する初回のご相談は無料となっております。
相続でお悩みの方は、今すぐご相談ください。

▼お問い合わせはこちら▼

keyboard_arrow_up

0728130595 問い合わせバナー 無料法律相談について